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なぜカラフはこんな危険な姫に惚れたのか|《トゥーランドット》を昼メロとして読む

プッチーニのオペラ《トゥーランドット》には、かなり危険な姫が登場します。
その名も、トゥーランドット。
絶世の美女として知られる皇帝の娘です。

ただし、彼女との結婚を望む男性には条件があります。
3つの謎を解くこと。
すべて正解すれば、姫との結婚が認められます。

しかし、ひとつでも間違えれば――死刑。
それでも求婚者は後を絶ちません。
そして、そんな姫に一目で心を奪われてしまった男性がいました。

亡国の王子、カラフです。
いや、カラフ。
なぜ行った。

危険だと知らなかったわけではない

カラフがトゥーランドットに出会うのは、北京の城門前。
そこで偶然、生き別れていた父ティムールと再会します。
盲目となった父を支えていたのは、若い女奴隷のリューでした。

親子の再会。
本来なら、それだけでも大事件です。
ところが、その夜の北京では別の事件が進行していました。

トゥーランドットへの求婚に失敗したペルシャ王子が、処刑されようとしていたのです。
月が昇れば、首が落ちる。
群衆は処刑を待ち、役人たちは準備を進めます。

やがて若いペルシャ王子が姿を現すと、群衆から助命を願う声が上がりました。
カラフも、そのひとりです。

そして、トゥーランドットが姿を現します。
しかし彼女は、助命を認めません。
処刑は予定どおり。

つまりカラフは、トゥーランドットがどのような女性なのか知らなかったわけではありません。
求婚に失敗すれば死ぬ。
しかも、その実例を目の前で見ています。

普通なら、ここで十分です。
ところがカラフは、そのトゥーランドットを見てしまいました。
そして恋に落ちます。

会話すらしていないのに惚れてしまった

この時点で、カラフとトゥーランドットの間に恋愛らしい交流はありません。

優しく声をかけられたわけでもない。
微笑みかけられたわけでもない。
もちろん、二人で語り合ったわけでもありません。

それどころか、カラフが見たのは処刑を命じるトゥーランドットです。
それでも彼は、「トゥーランドット!」と姫の名を叫びます。
そして求婚者になるため、銅鑼を鳴らそうとします。

これはもう、一目惚れとしか言いようがありません。
しかも相手は、失敗すれば自分の首が飛ぶ女性。
かなり命懸けの一目惚れです。

カラフが惚れたのは「手に入らない姫」だった?

では、カラフはトゥーランドットの何に惹かれたのでしょう。
もちろん、その美しさは大きかったはずです。
しかし、彼女はただ美しいだけの姫ではありません。

皇帝の娘。
誰にも心を許さない女性。
そして、多くの男たちが命を落としてもなお手に入らない存在です。

一方のカラフも、普通の男性ではありません。
国を追われたとはいえ、もとは王子。
危険を前にして引き下がるような性格でもありません。

周囲が止めても進む。
謎を突きつけられれば解こうとする。
そして実際に、すべて解いてしまう。

そう考えると、カラフが惹かれたものには、恋だけでなく「挑戦」も混ざっていたように見えてきます。

トゥーランドットだから恋をしたのか。
それとも、誰も手に入れられないトゥーランドットだからこそ、燃えたのか。
少々、怪しくなってきました。

父もリューも大臣たちも全力で止めている

もっとも、カラフ以外の人たちはかなり冷静です。

父ティムールは止めます。
リューも止めます。
さらにトゥーランドットに仕えるピン、パン、ポンまで、「やめておけ」と説得します。

敵も味方も、だいたい意見は同じです。
その銅鑼を鳴らすな。
それでもカラフは聞きません。

リューは涙ながらに引き止めます。
そこでカラフが歌うのが、《泣くな、リュー(Non piangere, Liù)》。
自分を思って泣くリューを慰め、父ティムールのことを頼みます。
とても美しいアリアです。

ただし物語の状況だけを見ると、少々言いたくなります。
いや、慰めるなら行くな。
カラフは結局、銅鑼を三度鳴らします。
もう後戻りはできません。

謎を全部解いたのに、まだ賭ける

第2幕。
いよいよトゥーランドットの謎解きが始まります。
出された謎は3つ。
カラフは、そのすべてに正解します。

これで勝負は決まりました。
皇帝の定めた条件に従えば、トゥーランドットはカラフと結婚することになります。
ところが本人は拒絶します。

「自分を見知らぬ男に渡さないでほしい」

皇帝である父に訴えるほどの拒絶です。
ここでカラフは、さらに妙なことを始めます。
勝者として結婚を要求するのではなく、今度は自分からトゥーランドットへ謎を出すのです。

夜明けまでに、自分の名前を当ててみろ。
当てられたなら、自分は死んでもいい。

せっかく3つの謎を突破したのに、もう一度自分の命を賭けました。
どうやらカラフが欲しいのは、「謎を解いた褒美として与えられる姫」ではないようです。

トゥーランドット自身に、自分を受け入れさせたい。
ここまで来ると、一目惚れだけでは説明しにくくなります。

《誰も寝てはならぬ》の夜、北京は大迷惑

カラフの名前を知らないトゥーランドットは、北京中に命令を出します。

今夜は誰も寝てはならない。
夜明けまでに、あの男の名前を突き止めろ。

名前がわからなければ、民は処刑されます。
つまり北京の人々にとっては、とんでもない夜です。

そんな夜。
当のカラフは、自分の勝利を確信しています。
ここで歌われるのが、有名な《誰も寝てはならぬ(Nessun dorma)》です。

単独で聴けば、壮大な勝利の歌。
最後には、「夜明けとともに、私は勝つ」と高らかに歌い上げます。

けれど物語の中へ戻してみると、少し景色が変わります。

北京中が自分の名前を探している。
見つかれば死ぬ。
それでも、私は勝つ。
ものすごい自信です。

考えてみれば、処刑される王子を見ても銅鑼を鳴らした男。
これくらいで動じるはずもありません。

カラフはずっとトゥーランドットだけを見ている

一目見ただけで恋に落ち。
死刑の危険があっても銅鑼を鳴らし。
3つの謎を解き。
ようやく勝ったと思えば、もう一度自分の命を賭ける。

カラフの恋には、かなり危ういものがあります。

恋なのか。
挑戦なのか。
執着なのか。
あるいは、そのすべてなのか。

ただ、ひとつだけはっきりしています。
カラフは最初から最後まで、トゥーランドットしか見ていません。
だからこそ、彼は止まらない。

父に止められても。
リューに泣いて頼まれても。
目の前で求婚者が処刑されても。

危険だから諦めるのではなく、危険であればあるほど、その先にいるトゥーランドットへ向かっていく。
それが恋なのか、挑戦なのか。
最後まで、きれいに分けることはできません。

けれど、その危うさまで含めて、カラフという人物なのかもしれません。
そして彼がトゥーランドットだけを見つめているすぐそばで、もう一つの恋も静かに動いています。
カラフだけを見ている、リューの恋です。