嫉妬に揺れる歌姫。
自由を信じる画家。
そして、二人を追いつめる権力者。
《トスカ》は、ローマを舞台にしたプッチーニのオペラです。
1900年に初演された全3幕の作品で、物語はわずか一日のうちに進んでいきます。
- 原題:Tosca
- 作曲:ジャコモ・プッチーニ(Giacomo Puccini)
- 初演:1900年(ローマ・コスタンツィ劇場)
- 幕数:全3幕
主人公は、歌姫フローリア・トスカ。
彼女が愛するのは、画家のマリオ・カヴァラドッシです。
そして二人の前に立ちはだかるのが、警視総監スカルピア。
愛と嫉妬。
信仰と欲望。
そして、逃げ場を失っていく二人。
《トスカ》では、甘美な旋律のすぐそばに、いつも不穏な影があります。
物語が始まってから幕が下りるまで、ほとんど息をつく暇もありません。
《トスカ》のあらすじ
物語の舞台は、1800年のローマ。
教会から始まった一つの逃亡事件が、トスカとカヴァラドッシを巻き込んでいきます。
その背後で二人を追っているのが、警視総監スカルピアでした。
第1幕|教会に忍び寄る影
舞台は、ローマのサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。
政治犯アンジェロッティが、牢獄から逃げ込んできます。
そこへ現れたのが、画家カヴァラドッシ。
彼は祭壇画を描きながら《妙なる調和》を歌います。
やがて恋人のトスカも教会へやってきました。
彼女は絵の中の女性を見て、少し嫉妬します。
けれども二人のやり取りは親密なもの。
トスカは《緑の中の二人の家にいきましょう》と、恋人との時間を思い描きます。
トスカが去ると、カヴァラドッシはアンジェロッティの逃亡を助けることを決意しました。
そのあと教会へ現れるのが、警視総監スカルピアです。
彼は残された手がかりから、カヴァラドッシの関与を疑います。
そして戻ってきたトスカの嫉妬心を巧みに刺激し、カヴァラドッシを追わせました。
教会には人々が集まり、壮麗な《テ・デウム》が響き始めます。
祈りの声が満ちる中、スカルピアが考えているのはトスカを手に入れること。
神聖な音楽と欲望が重なり、第1幕は不穏なまま閉じられます。
第2幕|歌に生き、恋に生き
舞台は、ファルネーゼ宮殿にあるスカルピアの部屋。
捕らえられたカヴァラドッシは、アンジェロッティの居場所を問い詰められます。
しかし、彼は答えません。
スカルピアは別室でカヴァラドッシを拷問し、その声をトスカに聞かせます。
耐えきれなくなったトスカは、ついに隠れ場所を明かしてしまいました。
さらにスカルピアは、カヴァラドッシの命と引き換えにトスカ自身を求めます。
追いつめられたトスカが歌うのが、《歌に生き、恋に生き》。
歌を愛し、恋を大切にしてきた自分に、なぜこんな苦しみが与えられるのか。
彼女の問いかけに、答える者はいません。
トスカはスカルピアの要求を受け入れたように見せ、カヴァラドッシを救おうとします。
スカルピアは処刑を空砲で行うと約束し、二人のための通行証を用意しました。
しかし、トスカはテーブルにあったナイフを手に取ります。
そしてスカルピアを刺し殺しました。
静かになった部屋をあとにして、トスカはカヴァラドッシのもとへ向かいます。
第3幕|星の消える夜
夜明け前のサンタンジェロ城。
処刑を待つカヴァラドッシは、トスカとの日々を思い出します。
そこで歌われるのが、《星はきらめき》。
夜空の下で浮かぶのは、愛した人の姿でした。
やがてトスカが現れます。
彼女はスカルピアを殺したこと、そして処刑は空砲で行われることを伝えました。
二人は《優しく清らかな手》から続く音楽の中で、再び一緒に生きられる未来を思い描きます。
あとは処刑をやり過ごせば、ローマから逃げられる。
トスカはそう信じていました。
銃声が響き、カヴァラドッシが倒れます。
しかし、彼は起き上がりません。
スカルピアは最後まで二人を欺いていました。
処刑に使われたのは空砲ではなく、実弾だったのです。
さらにスカルピア殺害も発覚し、兵士たちがトスカを追ってきます。
逃げ場を失ったトスカ。
彼女は城壁の上から身を投げ、物語は幕を閉じます。
トスカの有名アリア一覧
《トスカ》では、物語が緊迫するほど音楽が強く感情を語り始めます。
あらすじを知ってから聴くと、美しい旋律の向こう側にあるものも見えてくるかもしれません。
- 妙なる調和(Recondita armonia)
第1幕、カヴァラドッシのアリア。 - 緑の中の二人の家にいきましょう(Non la sospiri la nostra casetta)
第1幕、トスカのアリア。 - テ・デウム(Te Deum)
第1幕終盤、スカルピアを中心とした場面。 - 歌に生き、恋に生き(Vissi d’arte)
第2幕、トスカのアリア。 - 星はきらめき(E lucevan le stelle)
第3幕、カヴァラドッシのアリア。 - 優しく清らかな手(O dolci mani)
第3幕、トスカとカヴァラドッシの場面。 - 新しい希望に魂は勝ち誇って(Trionfal di nuova speme)
第3幕、カヴァラドッシとトスカの二重唱。
夜明け前のローマ
《トスカ》には、穏やかな時間がほとんどありません。
教会から宮殿へ。
そして、夜明け前の城へ。
物語が進むほど、トスカとカヴァラドッシの逃げ道は少しずつ失われていきます。
それでも音楽の中には、二人が思い描いた未来があります。
《歌に生き、恋に生き》の祈り。
《星はきらめき》に残された記憶。
そして、夜明けを前にした二人の希望。
結末を知っているからこそ、その美しさが痛く聞こえることもあるでしょう。
まずは気になる一曲から。
プッチーニが描いた、夜明け前のローマをのぞいてみてください。